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@ サトウヒロシ🐰@nostr
2025-04-18 04:58:322040年10月15日。東京の空はいつも通り、灰色に淀んでいた。雨が降るわけでもなく、ただ重たい雲が街を見下ろしている。俺の名はタカシ、27歳。かつては「未来を担う若者」と呼ばれた世代だが、今じゃ「税金の運搬機」と揶揄される存在だ。
朝6時。アパートの玄関に設置された徴税端末がけたたましく鳴り響く。画面には赤文字で「本日の納税額:38万4千円」と表示されている。給料の8割が消える瞬間だ。社会保険料60%、所得税80%、そして金融所得課税80%。貯蓄なんて夢物語で、銀行に預けたわずかな金さえも税務署の監視AI「カネミツ」に吸い取られる。昨日、バイト先で汗水垂らして稼いだ金は、今日には老人の医療費と年金に化ける。
「タカシ、払えよ。遅延ペナルティは1日3%だぞ」 端末から流れる無機質な合成音声が俺を急かす。仕方なく掌をスキャナーにかざすと、銀行口座から即座に金が引き落とされる。残高はマイナスに突入。借金生活の始まりだ。
街に出ると、いたるところで同じ光景が広がっている。コンビニの前では、スーツを着た中年男が「消費税40%だってさ…弁当一つで500円が消える」とぼやきながら袋を握り潰している。道端では年金受給者の集団がデモ行進中だ。「我々の命を奪うな! 若者はもっと働け!」と叫ぶ声が響くが、誰も耳を貸さない。俺たち若者は働きすぎて死にそうだってのに。
政府は言う。「少子高齢化は不可逆だ。社会保障費が予算の90%を超えた今、税収を増やす以外に道はない」と。確かに老人は増えた。平均寿命は95歳を超え、街は車椅子と介護ロボットで溢れている。でも、その「命を支えるコスト」は俺たちの首を絞める鎖だ。相続税80%のおかげで、親が死んでも遺産は国に没収。家一軒残すことすら許されない。
夜、俺は仲間と薄暗い地下バーに集まる。ここは「非課税ゾーン」と呼ばれる闇市場だ。政府の監視が届かない数少ない場所。酒は密造だし、煙草は密輸品。だが、それでも俺たちは笑う。笑うしかねえんだ。
「なぁ、タカシ。革命でも起こすか?」隣に座るユウキが冗談めかして言う。彼の目は血走り、手は震えている。過労と貧困で半狂乱だ。
「革命ねぇ…税務署のAIが俺たちの脳みそまで徴収しちまうぜ」と俺は返す。笑い声が響くが、それは空虚で、すぐに消える。
その夜、俺は夢を見た。税金の数字が空を埋め尽くし、俺を押し潰す夢だ。目覚めた時、枕は汗でびしょ濡れだった。そしてまた、朝6時。徴税端末が鳴り響く。 この世界に希望はない。ただ、納税と老人の延命が永遠に続くだけだ。